眩しいくらいの朝焼けだった。
 



『最後に、一つだけ伝えないと』



………
 
……これで何度目だろう。手を伸ばせば抱きとめられる距離に彼女はいる。
しかし、俺はただ言葉の続きを待つことしかできない。

…そう、これは繰り返し見てきた俺の記憶。
 


『シロウ…貴方を、愛している』

 
 
そして…誓いをたてるかのように真剣で、俺が初めて見て一瞬で心を奪われたあの表情で彼女は告白をし、うっすらと赤い光に溶け込むようにして…消え去った………。

 

…いや、それは違う。
彼女は戻ったのだ、誓いを守るため、自分の生き方を貫くために…
 
 
 
 
 

An after story 
of the ending
“Fate”

 
 
SOLITUDE  presents


 
 
 
 
「………い、……先輩、起きてください先輩」
 
「うっ…んー…桜?」
 
「もう、桜?じゃありません。まだ寒いんですから、こんな所で寝ていたら風邪をひきますよ」
 
「あー、いつもごめんな、桜」
 
「はい、気をつけて下さいね。それと朝御飯の仕度は私がやっておくので先輩は早く着替えてきてください」
 
「えっ?…やばっ!もうこんな時間かよ…悪かったな、桜だけに準備を任せて。でも、もっと早く起こしてくれたら俺も手伝ったぞ」
 
「すいません。でも、先輩の寝顔が可愛いから、ちょっと起こすのがもったいなくて」
 
「なっ!?」
 
…全く、寝起きにいきなり不意打ちかよ…うわっ、顔あつっ。
 
「くす、じゃあ待っていますから」
 
朝から不意打ちを仕掛けてきた張本人は優しく微笑みながら土蔵を後にしようとする。

 

…あっ、そういえば。
 
「桜」
 
「はい?」
 
「おはよう、今日も宜しくな」
 
「…はい、宜しくお願いしますね先輩」
 

 

序章:T/新たな日常

 

 

「あっ、こらサクラー!!シロウを起こすのはわたしの役目なんだから!」
 
おっ、我家の食客がやって来たな。
ダーっと中庭を横切って、銀色の髪の少女が走って来る。
 
「あっ、イリヤさんおはようございます。でも、先輩を起こしたいなら私より早く来ないとダメですよ。あと言っておきますけど、先輩の可愛い寝顔を見られるこの役目は私の特権なので渡しません」
 
「さ、さく…」

「あー言ったわね、サクラ!いいわよ、あなたより早く来てわたしだってシロウの可愛い寝顔を見るんだから!!」
 
「ふふふ、じゃあ私はもっと早く来ちゃいますね」
 
む〜っと唸っているイリヤに微笑み…いや、笑ってない笑みを浮べる桜。

俺にしてみればどっちに見られても恥ずかしいんだが…
 
(
…ていうか、本人がいる前で言うなよ…)
 
苦笑いをしながら、いつものように言い合っている二人を見る。

そう、いつものように…
 

 


あの戦いが終わり、数週間が経った。
 
イリヤは藤ねぇの家の居候になっていて、朝晩と二人でうちに飯をたかりに来ている。
向こうでは雷画爺さんや組の皆に気に入られていて、今や藤村組のマスコットとなっているので藤ねぇはだいぶ…いや、かなりしょげていた。
 
でも藤ねぇ、その歳で…


『藤村組のマスコットは私なのよ!返しなさい!』

って…どうなのさ?
 
…あと、イリヤの二人の従者の…えっと、セラさんとリーゼリットさんは森の城に残したらしい。
だから、週末にはイリヤは城に帰っている。

セラさんがうるさいとか愚痴っているけど、やっぱり気掛かりなんだろうな。
 
 
 
…桜はあの後しばらく落ち込んでいた。

慎二が行方不明となりショックなのだろう。
今は一人で暮していて、前と同じように朝晩と飯を作りに来てくれる。

以前、藤ねぇと一緒にうちか藤ねぇの家に住むように誘ってみたんだが断られた。
 
…しかし、魔術師でない桜は本当のことを知らない。
慎二は…イリヤに殺されている。
 
確かに慎二もマスターとなって参戦し、学校に結界を張って他人を犠牲にしてまで勝とうとしたのだ、魔術師の戦いで殺し殺されるのは当り前、イリヤが殺したのも慎二が殺されたのも仕方がないことだろう。
 
でも…それでも俺はイリヤには人を殺して欲しくなかったし、慎二は中学からの悪友だ、ここ一年はギクシャクしていたがやはり悲しい。

それに、何よりも桜に悲しい顔をされるのが辛かった…
あの自分を責めるような顔を見る度に、俺は自分の無力に腹が立つ。
 
…だが、そんな桜を励ましたのもイリヤだった。
桜は真実を知らないしイリヤも伝えていないだろうが、二人はそれから頻繁に会話したり今日のように言い合ったりしていて、桜もだんだん元の明るさを取り戻してきているようだ。
 

 


ズドン!

 

 
「ぐはぁ!?」
 
唐突に腹部に何かがめり込んだ。
 
「おはようシロウ!」
 
「お、おはようイリヤ…」
 
俺の腰に、厚めのコートを着た少女が抱き付いている。

イリヤのこれ(トペ・アインツベルン)はもう朝の儀式みたいなものだ…。
他にも肘を立てての突進や、酷い時にはダイブして膝から腹の上に落ちて来る。

あの時は軽く意識を失った。(ちなみに技名は藤ねぇが付けたらしい)
 
…抱き付きながらはしゃいでいるイリヤを見る。
あぁやっぱりこの子はこれが一番だ、魔術師ではなく外見に相応しい無邪気な少女、銀色の髪が朝日を反射してとても綺麗に見える。
 
「あっ!イリヤさんずるいです!」
 
「ふん、シロウにこうやってスキンシップができるのはわたしの特権よ。大体あなたが同じ事をしたらシロウの内臓は本当に破裂しちゃうじゃない」
 
「それは、私が重いということでしょうか?」
 
「あら、わたしはあなたが重いだなんて一言も言ってないわよ」
 
フッと笑うイリヤに、クスクスクスと黒いオーラを出しながら笑う桜。
ヤバい…あの桜は一番怖い。
 
「さ、桜。そろそろ時間ヤバくないか?」
 
それとなく話題をそらす。
 
「あっ!すいません。ではイリヤさん、決着は夕食の後で。あと、食器を並べるのを手伝ってもらえますか?」
 
「いいわよ。じゃあシロウ早く着替えて来てね!」
 
二人は縁側から上がり居間に向かって行った。
 
「…さて、俺も急がなきゃ」
 
二人が去った後、俺も駆け足で部屋に向かった。
 
 

 


 
「もう、士郎遅い!お姉ちゃんお腹ペコペコよ!」
 
着替えを済せて居間に入ると、飢えた虎がお茶椀と箸を持ち、準備万端で待っていた。
 
「悪いわるい、昨日遅くまで作業していたから寝過ごしちゃってさ」
 
「でも最近多いよね、寝過ごすの。士郎、前はもっと早起きじゃなかった?」
 
…そう、あれから俺は戦争中成功した強化や投影の練習を、感覚を忘れないうちにと思い、がむしゃらに練習している。
強化こそ成功率は上がったが、カリバーンやアヴァロンの投影は、あの時のできに遠く及ばない。

…そんな理由で、土蔵で一晩明して桜に起こしてもらうのが増えていた。
 
「あぁ、ちょっと直しかけのやつがあってさ。ごめんな」
 
「いいんですよ。じゃあ、全員揃ったので食べ始めましょうか?」
 
最後のおかずをテーブルに置き、桜が座る。
 
「あぁ、じゃあ作ってくれた桜と手伝ってくれたイリヤに感謝して、いただきます」
 
「「「「いただきます。(まーす!!)」」」」
 
 
 
食事が終わり、藤ねぇと桜は先に学校に向かい、俺とイリヤは食器を片付けている。
 
「…ねぇシロウ。学校って今日までだよね?」
 
イリヤが、俺が洗い終わった食器を拭きながら尋ねる。
 
「あぁ、今日が終業式で明日からは春休みだ。でも藤ねぇと桜は部活があるから、休みのうちも出かけると思うけど」
 
「そっか、じゃあ今日は帰りが早いの?」
 
「あぁ。俺と遠坂は12時過ぎには帰ってくるから、昼飯は三人で食べようか?」
 
「うん!」
 
「よし。じゃあ何か食べたいものあるか?」
 
「えーっと、スパゲッティがいいな」
 
「わかった。じゃあアサリを買ってきてボンゴレにでもするか…」
 
朝こそ『私は食べない派だから』という理由で(単に朝に弱いだけだが)来ないが、あれから夕飯には遠坂も加わっている。

俺が和食、桜が洋食、遠坂が中華と交代制で…と言っても味付と仕上げ以外は三人で共同で作っているし、時々お互に得意料理を教え合いながらも作っている。
 
そんなわけで我家の献立は、ホテルのレストラン並に豊富だ。
それに俺もスキルが伸びるのは嬉しいし、虎も大変ご満悦なのだが…
その歳でろくに料理もできずに年下にたかるだけなんて、藤ねぇは結婚というものは考えていないのか?
 
 
 
考えているうちに洗い物も終わって、登校時間になった。
 
「よし、これでおしまいっと。ありがとうな、イリヤ。そろそろ行こうか?」
 
「はーい。…ねぇ、シロウ」
 
「ん、なんだ?」
 
「シロウの家は温かいね。…ううん、ここだけじゃなくてライガの家も温かい。みんな優しくて、とっても楽しそうだよ」
 
イリヤが玄関の前で振り向きながら、優しい笑顔で言ってくれる。
 
「…あぁ。藤ねぇや桜に遠坂、藤村組の人達も皆いい人達だからな。皆、大事な俺の家族だよ。…もちろん、イリヤもな」
 
そんな俺の言葉に、イリヤは不思議そうに俺を見て、
 

 

「わたしも…シロウの家族で良いの?」

 

 
…なんて尋ねてきた。

俺はイリヤの頭に手を置いて、彼女と同じ目線になって言った。
 

 

「当り前じゃないか。これからずっと、俺たちは家族だよ」

 

 
イリヤはまた不思議そうな顔をしていたけど今度は、
 

 

うん!!よろしくね、お兄ちゃん」

 

 
満面の笑みで応えてくれた。
 
「あぁ。でも、お兄ちゃんはちょっと恥ずかしいぞ」
 
「いいの!わたしたちは家族なんだから!」
 
そう言って、イリヤは俺の腕に抱き付きながら楽しそうにはしゃいでいる。
 

 

……いくつか無くしたものもあるけど、新しく手に入れたものもある。

俺はまたこの温かい場所に戻ってこれたのだ。
 
そうして日常の朝が終わり、俺たちは二人で並んで家を出て行った。
 
 
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